4章.慰安婦を研究している人はなんと言っているか

新聞や雑誌を読むと激しい論争があるように思いますが、では研究者はどう見ているのでしょう?実は慰安婦を研究している人で慰安婦を職業的な売春行為だとしている人はほとんどいません。最初に資料を発見した代表的な研究者である吉見義明と異なる立場をとる研究者は、実際上秦郁彦1人だけです。研究者の間では慰安婦が旧日本軍による犯罪(誘拐・監禁・強姦による性暴力)であることに異論はありません。研究者の意見としては吉見義明が精力的に公表を行っていますが、一方歴史学社会学の学者などの研究者の動きは見えにくいのですが、例えば本HPの参考書リストなどを見れば少し様子がわかるでしょう。


更にこうした研究者の見方を具体的に示すものには以下があります。

慰安婦に関する研究者の見方

  • 吉見義明は2002年それまで約10年間の慰安婦に関する研究状況を振り返り、多くの資料や証言が発掘され、研究者の協調が進んだことを記しています。この中では慰安婦と公娼との差異について議論があっても、慰安婦が性奴隷(ないしそれ以下の犯罪被害者)であることでは議論がないことがはっきり書かれています。(日本軍性奴隷(「従軍慰安婦」)制度研究の現段階 吉見義明 戦争責任研究 (38) [2002.冬季])
  • 2005年に実地での証言や資料の研究をまとめた朱高蘭は、それまでの慰安婦研究を振り返り11冊を主要な研究書としてあげています。この中では吉見義明らの著書と共に中国の研究もあげられていますが、性奴隷か否かでは議論があるとはされていません。(台湾総督府慰安婦 明石書店 2005)
  • 金冨子は慰安婦の研究書の書評の中で慰安婦研究を概観して、公娼と慰安婦はどういう関係にあるかについての研究者の見方を整理しています。しかし慰安婦が性奴隷かそれ以下である点ではほとんど差がないとしています。(書評 尹明淑『日本の軍隊慰安所制度と朝鮮人軍隊慰安婦』 金富子 歴史学研究 (792) [2004.9] 書評の中で慰安婦研究を概観している)
  • 上野輝将は従軍慰安婦に関する論争自体を対象に研究をしていますが、その中で研究者の動向を振り返り、慰安婦が性奴隷であることには研究者の間には議論はないとしています。いわゆる自由主義史観論者など反対している人が吉見義明の研究に触れないのは、学問的な議論では太刀打ちできないからと、見ています。又反対している歴史学者中村粲秦郁彦だけで彼らも吉見らの研究にはふれず政府の対応などしか批判していない事を指摘しています。(性を考えるわたしたちの講義 世界思想社 1997)