1章.従軍慰安婦とは何か
当時は売春婦と考えられていましたが、現在の人権意識から見れば軍隊に強制売春をさせられている性奴隷というべき存在です[注1]。当時日本には公娼制度があり、金銭でしばり売春を行わせることが合法的に行われていましたが、現在ではこの公娼制度自体が、廃業の自由がない(嫌になっても止められない)、居住の自由がない(逃亡防止のため遊郭の外に住まわせなかった)事から強制売春であり、奴隷制度であると考えられています。こうした見方は女性史など研究者の間ではほぼ共有されていますが、一般的には浸透していないようです。しかし、2007年の安倍首相の慰安婦についての発言に、アメリカから一斉に非難の声があがったように、世界的には性奴隷(Sexual Slavery)であるという見方が大勢をしめていると言うべきでしょう。
従軍慰安婦は公娼制度より更に過酷で、見せかけの保護規定もない剥き出しの性奴隷であると吉見義明は指摘しています。慰安婦には、多くが甘言・強圧などで拉致・誘拐されたものであること、相手を拒否する自由がないこと、外出が制限され行動の自由がないこと、現在の証言から多くが業者に騙されてまったく賃金をもらっていないこと、などからより過酷な奴隷制度だと考えられています。
更にその状況は、相手が軍人が主であり、戦闘を前にした軍人は気が荒く逆らえば暴行されること、日本軍には休暇制度がなく慰安所だけが実質的に唯一の娯楽制度であり、多いときには30から40人もの相手をさせられ非常に過酷であること、場所が最前線の戦地まであり空襲や敵の攻撃などの危険があること、更に最近の研究では、軍によるまったくの誘拐・監禁・連続の強姦といった状況もかなり存在すると見られる点で、日本軍によるはなはだしい性犯罪(戦争犯罪)であると考えられています。