2章.慰安婦の強制連行はあったのか

官憲などによる組織的な強制連行を示す資料はありません、しかし強制連行されたとのいくつもの証言があり、慰安所に監禁して無理に兵士の相手をさせた事が強制であり、当時の刑法に照らしても犯罪だと指摘されています。

1977年に『朝鮮人慰安婦と日本人』(吉田清治)が出版され、その中で著者は当時自分を含む日本官憲が朝鮮の女性を強制連行し慰安婦にしたと記し、朝鮮人女性の強制連行(奴隷狩り)を証言した。1991年には韓国で初めて元慰安婦であることを証言した金学順が日本政府に謝罪を求め東京地裁に提訴するなど、慰安婦が強制連行されたという訴えが起きて、日韓両国間での問題となりました。


日本政府は当初軍の関与を否定していたが、1992年吉見義明が軍の関与を示す当時の資料の存在を指摘したため、1993年には政府が慰安婦についての調査を行い結果を発表した[注2]。また強制性を認める河野談話を出しました。これにより、募集・移送・管理において総じて(すなわち全体として)[注3]強制性があったことが政府により認められました。これで外交面での問題は収束したと見られている。


しかしその直後から強制連行の証拠はないという指摘が目立ち始め、1996年の歴史教科書問題を契機にいわゆる自由主義史観論者や産経新聞を中心に慰安婦の強制連行はなかった、慰安婦問題などないという声が盛り上がりました。これらの声では強制連行とは「官憲などによる奴隷狩りのような暴力的な連行」であり、これは時に「狭義の強制連行」と呼ばれます。現在これを示す政府資料は発見されていません。
[注2]いわゆる従軍慰安婦問題について(PDF)、内閣官房内閣外政審議室、1993年8月4日  http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/taisen/pdfs/im_050804.pdf
[注3]「総じて」の意味は募集・移送・管理の全体を見ての意味だと河野は答えている(平成9年3月31日朝日新聞

<強制連行についての正しい答え>

  1. 河野談話を出した河野官房長官慰安婦に自由がなく、本人の意思に反したという意味で強制性はあったとしている(朝日新聞 平成9年3月31日のインタビュー記事より)。
  2. 吉見義明は強制連行の例はいくつもあることを指摘し、その上で暴力的な強制連行だけを問題にする事を批判し、まず甘言などで騙して連れてきた場合でも当時の刑法に照らして略取・誘拐罪にあたり、奴隷狩りのような暴力的な連行でなくともそれは犯罪行為(誘拐)であると指摘している(朝日新聞 2007年4月18日 吉見義明の投稿記事より)。
  3. 更に中国や太平洋地域の前線近くでは軍による暴力による徴募と監禁、繰り返しの強姦もたくさん報告されており、こうしたものは軍による組織的な性犯罪だと指摘されている。(慰安婦戦時性暴力の実態1および2 緑風出版 2000で報告されている占領地での日本軍の蛮行について)
  4. 日本人慰安婦については、それが当時の公娼制度と同質のものであっても、公娼制度自体が実際には金銭で行動をしばる人身売買であり、奴隷制として扱われるべきであると女性史の研究家から指摘されている(例えば 川田文子(戦争と性:近代公娼制度・慰安所制度をめぐって 明石書店 1995)など)。

以上から、研究者は慰安婦とは日本軍・政府による性奴隷または強姦などの性犯罪の被害者であると考えています。従って研究書では慰安婦とは性奴隷、軍性奴隷などと書かれています。こうした見方に反対する研究者は秦郁彦一人だけであり、彼の本はそれが研究と言えるかどうか前田朗などから疑問の声があがっています。


なお海外での受け取り方は国連のマクドゥーガル報告書に見るように、性奴隷であり国家に保証責任があるというのが一般的であり、そうした見方では慰安所での慰安婦の状態が既に犯罪であり募集の際に暴力的に連行したか否か(強制連行か否か)は問題にされていません。